なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注21

公開: 2021年4月26日

更新: 2021年5月16日

注21. ロバート・オーウェンと社会主義思想の誕生

ロバート・オーウェンは、19世紀、イギリスの産業革命時代の企業経営者であり、思想家である。産業革命時代には、資本家が自分の企業を経営するやり方が一般的であった。企業経営者は、自分が資本を投資して建設した工場からの収益を最大化しようとして、建物などに最低限の投資をし、なるべく低賃金で労働者を雇い、労働者に長時間労働を強いた。

フランスの思想家、サン・シモンは、そのような経営のやり方に疑問を呈していた。サン・シモンは、資本主義社会においては、資本家と労働者は、双方とも社会になくてはならない要素であるとして、生産を担っている労働者を大切にしなければならないと主張した。オーウェンは、この思想に賛同し、労働者が置かれている労働環境の改善が、労働者と資本家の双方に利益をもたらすと主張した。

スコットランドで綿織物の大工場を経営していたオーウェンは、自分の工場の設備を改善し、労働者が働き易い環境を作ることに注力した。また、労働者の子供たちに対して、より良い教育環境を与えようと、学校を整備した。彼は、自分の私財を投げうって、この社会的事業を実施したが、結果として、それは失敗に終わった。

スコットランドでの実験事業に失敗したオーウェンは、当時の新天地であった米国のインディアナ州に新しい工場を建設し、敷地内に従業員の住居、生活必需品を販売する商店、子供達が通う学校を建設して、労働者を集め、一時的に経営に成功した。しかし、その成功も長続きせず、全財産を失って、彼は、失意のうちにイギリスに帰国した。

オーウェンの試みは、その後、マルクスなどにも影響を与えたが、20世紀のイギリス社会における社会主義的な福祉社会建設の基礎を築いたと言える。特に、最低賃金の保障、医療費の免除、教育費の無償化などは、オーウェンの思想に基づく労働者の処遇が根底にある。イギリスでは、イギリス病と呼ばれた、国民に無力感を広めた政策を、1980年代にサッチャー首相が転換するまで、社会主義的な政策が続いた。

また、オーウェンの思想は、20世紀の米国社会で著しい発展を遂げた、テイラーによる労働の科学的管理の思想に基づいたホーソン研究の実験から明らかになった、労働の物理的な環境だけが労働の生産性に影響するとする考えに対して、労働者の精神面に影響する要因が勝るとする20世紀半ばの人間関係論に発展していった。

参考になる読み物

The History of Work, Richard Donkin, Palgrave Macmillan, 2010